校正者の仕事がなくなる? 第2回:「校正の領域」

みなさんこんにちは、文字工房燦光の下重一正です。
前回、第1回の記事「校正者の仕事がなくなる?」では、
「出版物の販売額」と「新刊点数」を比較し、校正の需要は「出版物の販売額」に比例するのか?
という視点で、校正者の未来を考えてみました。
今回、第2回の記事「校正の領域」では、「校正者の仕事の領域」について考えてみます。
突然ですが、みなさんは「校正の仕事」というと、どのような場面を思い浮かべますか?
多くの方は、校正者が出版社や新聞社で、書籍や雑誌、新聞などの原稿と向き合いチェックをしているような場面をイメージするかと思います。
もちろんこれは誤りではありません。
前回の記事で、出版物の売上は1996年以降、年々減少傾向にあることをお話ししましたが、「売上」を計算するためには、当然その出版物に「値段」がついている必要があります。
値段がついている出版物とは、具体的には、書籍、コミック、雑誌、児童書など、いわゆる「本屋さんに並んでいる出版物」です。
しかし、実のところ校正者が校正対象とする媒体のうち、「値段がついている出版物」はほんの一部でしかありません。
では、他にどのようなものが校正の対象になるのかというと、カタログやチラシ、社内報や会社案内、Webのニュース記事や会社HP、ECサイト、決算短信や有価証券報告書などの投資家情報、保険の約款や申込書など、枚挙にいとまがありません。
分かりやすく言えば、「情報は全て校正の対象」となります。
上記の例に挙げたものには値札がついていませんから、これらは全て、出版不況の前提となる「出版物の売上」からは除外されます。
では、これらが何にあたるかというと「企業の広告宣伝費」に該当します(※1)。
次に、日本の広告費がどのように推移しているのかをみてみましょう。
日本の広告費の総額は、2011年の5兆9,222億円から、2023年には7兆3,167億円(※2)に増加しています。
また、出版物の2023年売上が1兆5,963億円(※3)だったことを踏まえると、その市場規模の大きさにも違いがあります。
これは統計データがあるわけではありませんので、あくまで推測値となりますが、校正の専門プロダクションである弊社の売上比率を元にすると、出版物の売上は全体の15~20%程度、残りの80~85%程度は「企業の広告宣伝費」などに該当し、「値札がついた出版物」以外の売上となるわけです。
では、このように校正市場の大部分を占める「出版物以外」の情報の源泉とはなにか、というと、それは「企業、および社会の活動そのもの」と言えます。
さて、今回は「校正者の仕事の領域」について考えてきました。
校正が対象とする領域が「出版物」ではなく「情報」であると考えた時、みなさんは、これから先「校正者の仕事がなくなる」と思いますか?
次回は少し視点を変え、「情報流通量の増大と信頼性」について考えてみたいと思います。
《第3回「情報流通量の増大と信頼性」につづく》
※1 制作物の性質や内容によって、計上する勘定科目が異なるため、今回例に挙げている全ての制作物が「広告宣伝費」にあたるわけではありません。
※2 (出典:電通グループ「2023年 日本の広告費」)
※3 (出典:出版科学研究所「出版指標」)
「校正者の仕事がなくなる?」(全6回)
第1回:校正者の仕事がなくなる? 「校正者の仕事がなくなる?」
第2回:校正者の仕事がなくなる? 「校正の領域」
第3回:校正者の仕事がなくなる? 「情報流通量の増大と信頼性」
第4回:校正者の仕事がなくなる? 「校正の需要拡大と課題」
第5回:校正者の仕事がなくなる? 「校正とAI」
第6回:校正者の仕事がなくなる? 「文字校正から情報校正へ」