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校正者の仕事がなくなる? 第1回:「校正者の仕事がなくなる?」

みなさんこんにちは、(株)文字工房燦光の下重 一正です。

私は校正の専門プロダクションである「文字工房燦光」、
その中でもWeb・IR・ヘルスケアに特化した「プルーフウェブ」、
そして、編集者や校正者を養成する「日本エディタースクール」の代表を務めています。

職業柄、業界の将来について質問を受けることが多いのですが、
顧問税理士と決算の相談をしている際にこのような質問を受けました。

「校正者という職業は、将来なくなってしまうのでしょうか?」

唐突にこのような質問を受けると、「ん~、そうかもしれませんね」とか、
「いや~、しばらくは大丈夫でしょう!」などと言って、ごまかしてしまいたくなりますが…
残念ながら立場上そういうわけにもいきません。

そこで今回は、全6回にわたって「校正」という仕事が今後どうなっていくのか?
校正者の未来について考えてみようと思います。

まず、なぜ人々がこのような疑問を抱くのかというと、
ニュースなどで長らく叫ばれている出版不況がその原因のひとつだと考えられます。

出版科学研究所「出版指標年報」によると、日本の出版販売額は、
1996年の2兆6564億円をピークに、2018年には1兆5400億円となり、
わずか22年の間で、実に約42%の売上が失われています。

この数字を見ると、みなさんが校正者の未来を憂うのも当然です。


しかし、ここでひとつの疑問が浮かびます。
ほんとうに、校正者の仕事量は「出版物の販売額」に比例するのか?という疑問です。

それでは少し視点変えて、「書籍の新刊点数」をみてみましょう。
1996年には63,054点の新刊が発売され、2018年には71,661点の新刊が発売されました。
(出典:出版科学研究所「出版指標年報」)

1996年と2018年を比較すると、「出版物の販売額」が約42%減少したのに対して、「書籍の新刊点数」は約14%増加したということです。

ここで重要なのは、本を1冊制作するには必ず校正が必要となる、ということです。
つまり、仮に校正者の仕事量が「出版物の販売額」よりも「書籍の新刊点数」に依存すると考えたとき、1996年から2018年の期間で、校正者の書籍校正の仕事量は増えている、ということです。

次回はもう少し視野を広げ、「校正の領域」について考えてみたいと思います。
《第2回「校正の領域」につづく》



【補足】
今回は、視点を変えることで見え方が変わる、という事を伝えるために恣意的な期間で数字を抜粋しましたが、
2013年のピーク時と比較すると現在は出版点数の落ち込みがみえます。

また「出版物の販売額」は、現実的には校正者の仕事量に大きく関係する要素です。
出版社の売上が減少すれば、ひとつの出版物に複数回行っていた校正の回数が1回になることもありますし、
校正者や校正プロダクションへの外注をストップして、内製化してしまうこともあるからです。

さらに、データがないため「出版物(書籍・雑誌・コミック・雑誌など)の販売額」と
「書籍の新刊点数」を比較しましたが、同じ期間で出版点数が大きく減少しているジャンルもあります。

しかしながら、必ずしも「出版不況」=「校正者の仕事量の減少」ではないこともまた事実です。
このように、校正者の未来を考えるにあたっては、実際には様々な要因を複合的に検討する必要があります。

「校正者の仕事がなくなる?」(全6回)
第1回:校正者の仕事がなくなる? 「校正者の仕事がなくなる?」
第2回:校正者の仕事がなくなる? 「校正の領域」
第3回:校正者の仕事がなくなる? 「情報流通量の増大と信頼性」
第4回:校正者の仕事がなくなる? 「校正の需要拡大と課題」
第5回:校正者の仕事がなくなる? 「校正とAI」
第6回:校正者の仕事がなくなる? 「文字校正から情報校正へ」

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